
1.秋は建設業にとって「繁忙期」

9月から11月にかけて、建設業界では公共工事や民間工事の発注が集中し、現場が最も慌ただしくなる時期を迎えます。
特に公共工事は、「年度内完成」が基本であるため、秋口から年末にかけて、工期の追い込みが発生しやすい傾向です。
国土交通省の調査によれば、公共工事の発注件数は例年9月以降に増加し、12月にピークを迎える事が分かっています。
つまり、この時期をどう乗り切るかが、現場の安全・品質・経営に直結するのです。
2.繁忙期がもたらす課題
繁忙期には次の様な課題が現場に生じやすくなります。
・長時間労働によるリスク

人員不足のなかで工期短縮に追われ、時間外労働が増えやすいです。
2024年4月からは、建設業にも「時間外労働の上限規制」が適用され、原則月45時間・年360時間、特例でも年960時間までとなっており、違反すれば行政指導や罰則の可能性もあります。
・安全管理の低下

工程を詰め込みすぎるとヒューマンエラーや事故が発生しやすくなります。
労災統計によると、建設業の労働災害の約3割は「墜落・転落」が占めており、繁忙期の焦りが安全確認不足に繋がるケースが多いです。
・品質低下のリスク

人員や時間を無理に削った結果、仕上がりや検査工程がおろそかになり、後戻り作業やクレームに繋がる恐れがあります。
3.労務管理のポイント
こうしたリスクを避けるには、事前の労務管理と工程調整が不可欠です。
・計画的な人員配置

繁忙期に入る前から外注先や協力会社との連携を強化し、必要に応じて派遣や短期雇用も検討する事が重要です。
・シフトと休憩の徹底

厚生労働省は「熱中症予防指針」の中で、暑さが残る時期にはこまめな休憩を推奨しています。秋とはいえ、日中は30℃を超える日もあり、過労や体調不良を防ぐために、休憩時間を工程表に組み込む工夫が有効かと思います。
・ITツールの活用

工程管理アプリや勤怠管理システムを導入すれば、現場の作業進捗や残業時間を見える化できます。
国の「建設業働き方改革加速化プログラム」でも、ICT活用による業務効率化を推奨しており、ICTの新規導入で補助金の対象となるケースもあります。
4.働き方の工夫
繁忙期を乗り切るためには単なる労務管理に加えて「働き方の工夫」も必要です。
・前倒し施工の意識

秋は台風や秋雨前線による天候不順が多いため、晴れ間を活用して前倒しで作業を進める事が、工期遅延を防ぐ最大のポイントとなります。
・多能工化による柔軟な現場運営

一人の作業員が複数の作業をこなせるように育成する「多能工化」は、人員不足に強い現場を作ります。国土交通省の調査でも、多能工化を進めた現場は生産性が平均で約15%向上した、と報告されています。
・ベテランの知恵を共有する仕組み

繁忙期こそ、若手とベテランの連携が重要です。
安全上の注 意点や作業効率化のコツを「見える化」して伝承する事で、現場の底上げに繋がります。
5.まとめ
秋の繁忙期は、建設業にとって避けて通れない試練の季節です。
しかし、事前の労務管理と働き方の工夫によって、工期・安全・品質の3つを両立する事は、十分に可能です。
「忙しいから仕方ない」と片付けずに、労働時間規制や安全管理を意識した体制作りを進める事が、長期的に見て経営を守る第一歩となるでしょう。
出典
「熱中症予防のための情報資料サイト」厚生労働省
「建設業 時間外労働の上限規制 分かりやすい解説」厚生労働省
「建設業働き方改革加速化プログラム」国土交通省
「マルチクラフター(多能工)を育成しよう!」国土交通省





