
日本の労働者人口(生産年齢人口)の減少に伴い、女性の労働力の需要が高まってきており、どの業界も子育てで仕事から離れている女性の入職を狙っています。
建設業界での「女性の入職における課題」「公的支援制度の内容」「女性が増えるとメリットがあるのか」等を本記事では解説していこうと思います。
目次
1. 建設業における女性就業者数の推移
総務省が2024年1月30日に発表した「労働力調査」によると、建設業の就業者数は483万人と前年から約4万人増となり、5年ぶりに増加傾向に転じています。
女性就業者が占める割合の推移も、2017年は15.2%、2022年は17.7%と増加傾向にあります。
しかし女性は依然として少ない状況です。
2. 入職における課題・定着のために行う事
建設業界はこれまで女性が極端に少ない状態が続いており、女性の受け入れ体制が整っていない事が多いです。
具体的にどのような点が懸念されるでしょう。
①女性用のトイレや更衣室が無い
まず真っ先に挙げられるのが、働く環境についてでしょう。
最近は男女別のトイレを設置する現場も増えてきておりますが、「生理用品を捨てるための汚物入れが無い」「近すぎて音が気になる」といった理由で、コンビニやビルのトイレを借りに行く事もあるそうです。
気軽に用を足せないというのは、非常に重要な点となりますよね。
②備品のサイズが合わない
ヘルメットや作業着やハーネスといった装備品は、男性の体格に合わせて作られているものが殆どで、女性サイズのものが入手しにくくなっております。
大きなものを代用しなければならないという場面では、作業効率や安全性に直結するため無視できない不自由さです。
③子育てや出産の支援制度が整っていない
一般社団法人全国建設業協会が実施した、建設関連会社に対するアンケート調査によると、育児休暇の利用実績はわずか15.1%で、84.9%が利用実績がないと回答しています。
また、出産や育児の制度を設けるだけでなく、急かを取りやすい環境づくりも重要です。
働き続けたいと思われる様な環境が魅力に繋がります。
3. 女性を必要とする理由・メリット
①人手不足解消
昨今、ベテラン労働者の引退や高齢化、そもそもの労働者人口の減少、若年者の入職者率の低下、など様々な問題が建設業界を襲っています。
こうした課題がある建設業界ですが、女性労働者が入職してくれる事で、人手不足の解消に繋がるでしょう。
②女性ならではの視点や気遣い
家事や子育てで培った女性ならではの視点を業務に取り入れる事が出来ます。
・効率的なスケージュール調整
・小さな危険も見逃さない広い視野
・インテリアなどのセンス
など新たな変化が生まれる事でしょう。
③建設業界や企業のイメージ向上
女性活躍の実績を確立すると建設業界や企業のイメージの向上に繋がります。
建設業は、「過酷」「労働条件が悪い」「拘束時間が長い」といったイメージを持たれる事が多いですが、女性が活躍している「働きやすい業界・会社」というイメージに変化します。
また、「くるみん認定」「えるぼし認定」といった、厚生労働省が実施する認定制度があります。
「くるみん認定」とは、女性活躍を推進している優れた企業を、厚生労働大臣が認定する制度です。
「えるぼし認定」とは子育てのサポートが手厚い企業を、厚生労働大臣が認定する制度です。
これらの認定制度は公共工事の受注時に活用されており、認定企業は公共工事の総合評価落札方式あるいは企画競争において、加点評価を受ける事が出来ます。
つまり、公共工事の入札で有利になる認定制度となっている為、競争の優位性を維持するためには、「女性活躍」「子育てサポート」が重要となってきます。
4. 女性活躍推進のための取組み
①女性用トイレや更衣室の導入
建設現場に男女別のトイレや更衣室を整備する事が重要となります。
男性と女性で適度な距離をとる事で、女性も安心して働く事が出来るでしょう。
⇒人材確保等支援助成金:作業員宿舎等設置助成コース
女性の建設労働者専用の作業員施設を賃借する中小元方建設業者に、賃借料や設置工事費など対象経費の3/5(上限90万円)が助成されます。
トイレ・更衣室・シャワー室等が対象となります。
②キャリアップの支援
意欲とやりがいのある環境整備も求められています。
女性就業者の技術向上のために、職場内外での教育訓練や研修等、支援が充実が必要となります。
⇒若年者及び女性に魅力ある職場作り事業コース
若年及び女性労働者の入職や定着を目的とした事業を行った建設事業主団体や、職業訓練の広報や啓発を行った職業訓練法人に対して、対象経費の2/3が助成されます。
⇒トライアル雇用助成:若年・女性建設労働者トライアルコース
35歳未満の若年者又は、女性を建設技能労働者としてトライアル雇用をすると、1人あたりケ月最大4万円が3ケ月間支給されます。
トライアル雇用助成:一般トライアルコースもあわせると一人あたり1ヶ月最大8万円が支給されます。
③女性が 継続就業しやすい制度を整える
ライフステージが変化していく女性が、継続的に建設業で就業するためには、仕事と育児・介護の両立を可能にする制度が必要不可欠です。
具体的には「長時間勤務」「フレックスタイム制」「産休育休制度」「復職後のサポート」「託児施設」「ビジネスケアラーへの対応」等が挙げられます。
5. 働きやすい環境作りの具体例
①大成建設株式会社
大手ゼネコンの大成建設株式会 社では、「誰もが働きやすい職場実現するために男性側の理解や当事者意識も必要」と考え、男性社員も巻き込んだワークライフバランス促進に取り組んでいます。
特に「男性の育休休暇」「介護離職防止」に注力しており、男性の育休取得率は何と100%を達成しています。
他にも以下のような様々な取り組みを実施する事で、働きやすい環境作りに取り組んでいます。
・育休中復職後の仕事と家庭の両立に対する心構えを学ぶセミナー
・女性を部下にもつ上司への研修制度
・企業主導型の保育所との連携
・ベビーシッター割引券の配布
出産 や育児だけでなく、介護にも手厚いサポートが整備されており、ビジネスケアラーに嬉しい制度が豊富です。
②三承工業株式会社
住宅メーカーの三承工業株式会社では、「妊娠や出産で働く事を諦めてほしくない」という考えのもと、子連れ出勤制度「カンガルー出勤」を導入しています。
子供と一緒に出勤し、親の目の届く範囲や、キッズルームで遊んで過ごします。
親が会議などで席を外す場合は、チャイルドマインダーの資格を持った社員が見守っていてくれるので、安心して子育てと仕事が出来ます。
男性社員も奥さんの体調不良時や、二人目の出産時などにこの制度を利用している様で、「みんなで育児に参画していこう」という社内風土が醸成されました。
▼参照
6. まとめ
本記事では、建設業における女性活躍の重要性や課題などについて、解説をしてきました。
最近では女性活躍の取組みが様々な角度から行われ ており、女性が入職しやすい環境や定着する環境作りへの意識も高まってきています。
職場で女性に快適に働いてもらうためには、以下の様な取り組みが必要となります。
・出産、妊娠、介護に対する支援制度を整える
・それらを利用しやすい環境作り
・トイレや更衣室等の男女別の施設が必要
・作業服やヘルメットなどの備品も女性サイズを用意する
女性労働者が増えると、人手不足解消や、新しい改革が進むかもしれません。
他にも、女性活躍や育児サポートをする企業には厚生労働大臣からの認定制度があり、公共工事の入札時に加点 がされ有利になるため、企業としての価値が向上するといったメリットもあります。
労働者と雇用者の双方がメリットを得られるため、女性の雇用や活躍の多面の支援を行っていきたいですね。
女性の雇用に向けた公的支援も充実しているので、有効に活用していく事をお勧めします。