

工期ダンピングとは、建設工事を施工するために通常必要とされる期間よりも、著しく短い工期を設定する請負契約をいいます。
建設業に従事する労働者に対して長時間労働を強制する事になり、手抜き工事や事故発生の可能性が高まってしまいます。
工期ダンピングは建設業界において深刻な問題の1つとされています。
こうした背景から、令和7年より施行予定の、建設業法等改正により、規制対象となります。
工期ダンピングの概要、建設業法の改正内容、建設業者が注意すべきポイントなど、本記事で解説をしていこうと思います。
■工期ダンピングとは
建設工事を施工するために通常必要とされる期間より著しく短い工期を設定する請負契約の事をさします。
元請はコスト削減を最優先とし、無茶な工期で依頼しております。
工事を短縮させる事で人件費等を浮かせられますし、早期に完成させる事で早期に利益を得る事が出来ます。
■工期ダンピングのリスク
工期ダンピングでは以下の様なリスクが生じる可能性があります。
①就労環境の悪化・長時間労働
納期に間に合わせるために建設業に従事する労働者が長時間労働を強いられる可能性があります。
本来、労働基準法では1日8時間1週40時間という法定労働時間が定められています。
工期ダンピングが行われた建設現場では、労働時間規制に従っていては納期に間に合わないという理由から、違法な長時間労働が常態化してしまうリスクがあります。
肉体的にも過酷な建設課現場だけあって、無理な長時間労働が続くと、過労死のリスクが高まる事も懸念されます、
こうした就労環境の悪化は、結果的に労働意欲の低下にも繋がり、人材流出や入職者減少の要因の一つとなります。
②手抜き工事
建設現場は天候に左右されますので、工事日程は余裕をもって設定されます。
しかし、工期ダンピングにより工期が不適正に短く設定されてしまうと、どうなるでしょうか。
工期に間に合わないと遅延損害金などを請求される恐れもあるため、事業主はなんとしても工期に合わせる様にしますよね。
工期に間に合わせるために必要な工程を省くなど、手抜き工事が横行するリスクがあります。
手抜き工事が発覚すると、場合によっては建物を取り壊して、一から施工し直さなければならない事態も考えられます。
③下請けへのしわ寄せ
建設業界は、注文者から請け負った仕事を、更に下請豪奢に依頼するといった、重層的下請構造になっています。
二次請けや三次請けは無理な工期での依頼も、断ったら次から仕事を貰えないかもしれない、という不安から請けざるを得ない場合も多いです。
下請業者間での激しい競争環境も、工期ダンピングが常態化する一つの要因です。
④安全性のリスク
必要とされる工期より短縮された工期では、安全対策を十分にとる余裕がなくなり、事故や災害のリスクが増加します。
大雨や雪や嵐等の悪天候の中での作業、休憩時間が確保できない中での作業、など本来なら考えられない状態での作業となる事で、事故発生のリスクが高まります。
また、ハーネスを装着して作業をした方が安全ですが、移動がしにくかったり時間が取られたりするため、装着しないで作業を行うケースも多いです。
工事現場で事故が発生してしまうと、プロジェクト全体での遅延や、コスト増加にも繋がりますので、元も子もありません。
■2025年に施行される建設業法等の改正とは

2024年6月に、「建設業及び公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律の一部を改正する法律」が国会で可決され、成立されました。
改正法は建設業の担い手を確保するために、労働者の処遇改善等を目的とする、規制変更を行うものとなります。
今回の建設業法等改正による変化は、大きく分けて以下の3つとなります。
①労働者の処遇改善(賃上げ)
②資材高騰に伴う労務費へのしわ寄せ防止
③働き方改革と生産性向上(労働時間の適正化・現場管理の効率化)
■令和7年施行の改正建設業法で注意すべきこと

①受注者側が注意すべきポイント
1.工期ダンピングの規制対象になります
改正前では発注者側だけが工期ダンピングの規制対象でした。
しかし、改正により受注者側も規制の対象となりますので、気を付ける様にしましょう。
(改正建設業法19条5第1項)
必要とされる期間よりも著しく短い工期を設定する請負契約を締結してしまうと、発注者も受注者も建設業法違反となります。
適正な工期であるかどうかは、工事内容が異なるため、請負契約ごとに違います。
中央建設審議会が作成及び実施の勧告をしている「工期に関する基準」を踏まえて判断をする事になります。
2.安易なコスト削減は控える(労務費の適正化)
改正建設業法では、建設業者は労働者に適正な賃金を支払い、適正な処遇を確保するための措置を講じることが義務付けられました。
(改正建設業法25条27第2項)(改正建設業法34条2項)
しかし、このような労働者の処遇確保措置は努力義務とされているので、違反したとしてもペナルティはありません。
それでも、安易なコスト削減は控え、適正な賃金を支払い、適正化に努める様にしましょう。
3.資材価格の変動に関する条項を明示する
建設工事の請負契約に関して、請負代金を変更する場合、金額の算出方法を定める事が義務化されました。
(改正建設業法19条1項8号)
例えば、資材価格の高騰などが発生した場合、受注者側が不利益を被らない様にするために、請負代金への反映をスムーズに行う事を目的としています。
4.著しく低い資材価格での見積は禁止に
受注者は、資材価格など建設に必要な経費の内訳等を記載した「材料費等記載見積書」を作成する、努力義務を負っています。
(改正建設業法20条2項)
通常必要と認められる資材価格を著しく下回るものであってはなりません。
この規制は、資材費などを請負代金へ転嫁できないと、労務費の圧迫につながるため、それを防止する事を意図した改正となります。
②発注者が注意すべきポイント
1.適正価格での発注
受注者から材料費等記載見積書の交付を受けた際に、当該建設工事の施工に通常必要と認められる材料費等の金額を著しく下回る様な変更を要求してはならない、と定められています。
(改正建設業法20条6項)
この規則に違反すると、国土交通大臣または都道府県知事による勧告や、公表の対象となります。
2.資材高騰時の変更協議に誠実に応じた義務
資材の高騰などのリスクが顕著化した場合、受注者は発注者に対して、請負代金の変更などについての協議を求める事が出来ます。
協議の申し出を受けた発注者は、正当な理由がある場合を除き、誠実に対応する事が義務付けられます。
(改正建設業法20条2第3項)
資材高騰のリスクを転嫁する事は避け、しっかりと協議を行い解決しましょう。
■まとめ
従来の建設業法でも、建設工事を施工するために必要とされる期間より、著しく短い工期での請負契約は禁止されています。
令和7年度には建設業法が改正され、この規制は一層厳しくなる事になりました。
今までは発注者側のみに帰省が設けられていましたが、今後は発注者側にも規制が設けられるので、著しく工期が短い工事の依頼は断るか、工期の延長を相談しましょう。
注意すべきポイントは出てきますが、これにより現場に出る王道者の労働環境の改善や、下請業者へのしわ寄せの改善、適正な工期と賃金が保障される事になります。
資材高騰の際も弱い立場の下請がリスクを負うのではなく、協議を申し出ることが出来る様になります。
今まで工期ダンピングで懸念されていた、多くのリスクも減っていく事も期待がされます。
建設業法違反にはペナルティも設けられているので、請負契約の際のトラブルや工期ダンピングについては、早めに建設業界につ負い弁護士に相談をしましょう。
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