
建設業は日本の経済成長と社会の変化を映す鏡のような存在です。
時代の流れとともに、求められる技術や働き方、価値観は大きく変化していきました。
昭和・平成・令和と移り変わる中で、何が変わり何が変わらなかったのか...。
本稿では、時代と共に変化していく建設現場環境を振り返りながら、今後の方向性について考察します。
【1.昭和:現場第一主義と経験重視の時代】

高度経済成長期(1955年~1973年)の昭和時代、建設業は未曾有の繁栄を遂げました。
高速道路、新幹線、ダム、公共住宅など、全国各地で大規模インフラ整備が進み、まさに「作れば売れる」「建てれば評価される」時代でした。
・多くの現場が「見て覚える」スタイルで技術を継承
・コミュニケーション手段は電話と対面中心
・図面や見積もりは手書き、記録も紙ベース
・技術者より「現場経験」が重視された
・工期は短期集中型で、休日返上や長時間労働も当たり前
・資材の荷揚げや型枠作業などは機械化は限定的
この時代は、熟練職人の「勘」や「経験」が、現場を支えていた時代でした。
現場では年長者の指示が絶対であり、「職長の背中を見て覚える」ことが技術継承の主流で、施工の詳細が文書化される事は少なく、いわば「職人の勘」が標準化の代わりを担っていたのです。
また、「暗黙の了解」や現場内の従弟制度的な関係が重視され、個人の裁量や判断力に大きく頼っていた時代でもありました。
こうした環境の中で多くの名工が育ち、インフラが築かれていったのです。
【2.平成:管理とコンプライアンス強化の時代】

平成時代は、バブル崩壊や阪神淡路大震災、建設偽装問題などを背景に、『安全』『透明性』『管理』の時代に変わっていきます。
・工程表、安全書類、施工計画書の整備が必須に
・写真管理、出来形管理、品質管理が厳格化
・CADやパソコンの導入が進み事務作業がデジタル化
・外国人技術実習制度が制度化し労働者の国際化が始める
・労働災害対策や安全対策の強化
・ゼネコンと下請会社の契約や責任関係が明文化される
バブル期までは経験や現場力に頼っていた業務も、「帳簿に残す」「根拠を示す」事が重視されました。
建設業における「事務作業」の比重が急増し、現場とオフィスの分業が加速していきます。
これにより、現場監督には現場管理だけでなく、報告書作成や発注対応など、多くの書類業務が課せられるようになりました。
この変化により、建設業における働き方は大きく変わり、「経験」や「勘」だけでは通用しない時代に変化したのです。
【3.令和:デジタル化と人材不足の時代】
令和時代は、少子高齢化に伴う人手不足や働き方改革の推進を受け、「省力化・効率化」が中心テーマとなっています。
・建設キャリアアップシステム(CCUS)が普及し技能や資格の「見える化」が進行
・遠隔臨場、電子黒板、ドローンなどデジタル化が加速
・ICT施行(BIM/CIM等)の推進
・「技術実習制度」から「特定技能制度」への移行により外国人材の雇用 形態が変化
・SNS、求人サイト、Web説明会などを活用した採用活動の活発化
これまでは現場とオフィスで時差が出ていた業務も、タブレットやクラウドを通じてリアルタイムで共有される様になりました。
こうした進化にあわせ、「デジタルに強い人材」が重宝されるようになり、世代間での知識やスキルのギャップが新たな課題となっています。
また、時代にあわせた労働環境の改善が求められ、週休2日制や残業時間の上限規制など 、整備されつつあります。
女性や若年層も働きやすい環境を目指し、従来の働き方そのものが、大きく見直されています。
【4.変化の中で守るべき建設業の本質】
いかに時代が変化しようとも、建設業には変わらない価値があります。
・信頼で回るチームワーク
・モノづくりの達成感とやりがい
・地域・社会への貢献
・現場で培われる人間関係と責任
こうした「人」と「技術」の融合が、建設業の根幹を支えてきたのです。
これらは、AIやロボットがどれだけ進化しても、代替できない価値です。
【5.今後の建設業に求められる姿勢】
今後の建設業を取り巻く環境は、ますます多様化・高度化していきます。
その中で重要なのは次の視点です。
・属人化を防ぎ業務やノウハウを仕組みとして標準化する力
・デジタルツールの活用と教育体制の整備
・多様な人材(外国人・女性・若年層)の受入れ
・組織として「選ばれる存在」「誇れる仕事」になるための広報力
これからは「作業者」から「発信者」への意識転換も重要です。
採用難が続く中、会社のビジョンや取組を積極的に社会へ発信していく力が、組織の未来を左右するといっても過言ではありません。
【6.まとめ:時代と共に変化していく建設現場】
昭和の「経験と根性」、平成の「管理とルール」、令和の「デジタルと共生」、
建設業は常に変化とともに歩んできました。
今はまさに次の時代へ進む過渡期です。
過去の流れを正しく理解し、自社の立ち位置を見直し、未来を想像することで、在り方や方向性が見えてくるはずです。
変化を恐れず柔軟に、しかし本質を見失わず。
建設業の魅力と価値を次世代へ繋げていきましょう。
出典
国土交通省「建設業の現状と課題」
厚生労働省「建設キャリアアップシステムについて」
建設業振興基金「技能者育成と働き方改革の動向」





